赤ずきん

赤ずきんというグリム童話がある。主人公は幼い女の子である。童話だから当然の設定である。童話の世界ではおばあさんがよく出てくる。主人公に優しい善人として出てくることもあれば殺して食べようとする魔女として出てくることもある。童話の世界ではおばあさんの役割は大きい。主人公を守ったり助けたり殺そうとしたりする。おばあさんと幼子という組み合わせは童話の定番である。赤ずきんにはオオカミが出てくる。グリム童話にはオオカミが出る話が他にもあるがいつも悪者で怖いものとして出てくる。善良なオオカミというのはいない。ヨーロッパにはオオカミに関する伝説があるらしい。興味深いところだ。
赤ずきんの物語は冒険譚と怪奇譚と成長物語の組み合わせである。
赤ずきんは冒険譚である。幼い女の子の冒険物語。始めは楽しいピクニックであり途中怖い試練に合い最後に乗り越えてめでたしめでたし。オオカミが赤ずきんを襲うくだりは印象的だ。初めはおばあさんの振りして赤ずきんを油断させてだます。ここには人間関係の普遍的な関係のあり方が描かれている。人は人に嘘をついてだますのだ。悪い企みを隠して善良なふりをして近づくのだ。そうして騙された側は善良な人であり悪いものに殺されたり食べられたりする。童話の世界では悪いものが罰を受けて善良な人が最後には報われるという落ちになるのだけれど。現実の社会の人間関係は違う。騙された人は徹底的に裏切られ何も報われることもなく死んでいくのだ。だまされつけこまれ利用され搾取され最後には排除され捨てられていくのだ。これは社会の真理である。善良なだけでは人は生きていけないことは明らかである。善良さ以外に必要な力がある。したたかさとかある種のずるさが必要なのだ。童話の世界では何故か助けてくれる善人が現れて赤ずきんは実に都合よく助かってしまうのだ。これも現実の社会では滅多にないことだ。絶対にないとは言わないが。童話は色々な問題をはらんでいると思うけれど読み進めてみよう。
オオカミが赤ずきんを食べるくだりは一種の怪奇譚としても読める。人間は昔から怪談が大好きである。ここが物語としていちばん盛り上がるところである。オオカミと赤ずきんの会話も面白い。可憐で利発な幼子と邪でずる賢いオオカミとのやりとり。短いやり取りで赤ずきんとオオカミの性格の特徴を際立たせている。この作品の最も美味しいところである。こうしてみると赤ずきんという物語はとても豊かな世界を描いていると思うのだ。怖い話であり楽しい話であり面白い話であり作品全体がとても生き生きとしている。最後に赤ずきんはしっかりオオカミに報復するのである。赤ずきんは最後までかわいい子のイメージを崩さない。そしてかわいいだけでなく賢いのである。この報復においても読者は最後まで赤ずきんに味方するのである。報復出来てめでたしめでたし。実際に子どもが大人を殺したらドン引きである。結構壮絶な現場になるだろう。そうなったら完全にホラーである。
物語の最後に赤ずきんは経験値を上げる。怖い体験をしたからもう二度と怖い目に合わないために気をつけよう。最後まで赤ずきんは可憐で聡明な子として物語は終わる。最後は成長物語に仕上がって終わり。物語として見事なエンディングである。とても面白い物語であった。しかし思う。本当ならオオカミに食われた時点で終了だろう。